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雷サージとは?発生の仕組みから学ぶ、家電やPCを守るための対策

夏の夕暮れ、突然空が暗くなり、遠くで雷鳴が轟くと、多くの人は恐怖を抱くのではないでしょうか。しかし、雷の脅威はそれだけではありません。たとえ雷が遠くに落ちたとしても、その影響は目に見えない形で私たちの家庭やオフィスに忍び寄り、大切な電化製品を一瞬にして破壊してしまうことがあります。
それが「雷サージ」と呼ばれる現象です。私たちの生活が、パソコンやスマートフォン、スマート家電といった繊細な電子機器に支えられている現代において、雷サージは決して無視できない、身近なリスクとなりました。
本稿では、この雷サージが一体何なのか、その発生の仕組みから、私たちが愛用する家電製品やPCにどのような被害をもたらすのか、そして最も重要な「どうすれば大切な機器を守れるのか」という対策に至るまで、専門家の視点から詳しく、そして分かりやすく解説していきます。

そもそも雷サージとは?その正体と発生の仕組み

雷サージという用語の意味を知る前に、まず「サージ」という言葉の意味を知る必要があります。
サージとは、電気回路に瞬間的に発生する「異常な過電圧」や「過電流」のことです。つまり雷サージとは、雷が原因となって発生する、突発的な高電圧・大電流を指します。電気の津波のようなもの、と想像すると分かりやすいかもしれません。この電気の津波が、電線や通信ケーブルを伝って建物内に侵入し、電子機器に襲いかかるのです。

異常な過電圧が雷サージの正体

家庭用のコンセントには、通常100ボルト(V)の安定した電圧の電気が流れています。私たちの身の回りにある電化製品は、すべてこの100Vという電圧で正常に動作するように設計されています。
しかし、雷サージが発生すると、この電圧が瞬間的に数千ボルトから、時には数万ボルトにまで跳ね上がります。これは、マイクロ秒(100万分の1秒)からミリ秒(1000分の1秒)という、非常に短い時間のできごとです。しかし、その一瞬の電圧の急上昇が、精密な電子部品で構成された現代の家電にとっては致命傷となります。
普段は穏やかに流れている川が、鉄砲水となって押し寄せてくるようなもの。その凄まじいエネルギーが、電子回路を破壊してしまうのです。

雷サージが発生する3つの経路

雷サージが建物内に侵入する経路は、大きく分けて3つあります。一般的に最も被害が多いのは、直撃ではなく、間接的な影響によるものです。

直撃雷サージ

その名の通り、建物や電柱、アンテナ、送電線などに雷が直接落ちることによって発生するサージです。3つの経路の中で最も破壊力が大きく、数万アンペア(A)という凄まじい電流が流れます。このレベルのサージが発生すると、電子機器の故障だけでなく、建物の火災やコンセントの焼損、爆発といった物理的な大被害につながることも。ただし、発生頻度としては比較的まれなケースです。

誘導雷サージ

これが、家庭やオフィスでの電子機器の故障原因として最も多いパターンです。雷が建物や電線に直接落ちなくても、例えば数百メートル離れた地面や木などに落雷があった場合、その周辺には強力な電磁界が発生します。この電磁界が、近くにある電線や電話線、アンテナケーブルといった金属製の長い線に作用し、電磁誘導の原理(モーターや発電機と同じ原理)で高電圧を発生させます。この誘導された電気がサージとなって、配線を伝って建物内に侵入するのです。直撃雷に比べてエネルギーは小さいものの、電子機器を破壊するには十分すぎる威力を持っています。

逆流雷サージ

雷が地面や、建物の避雷針に落ちた場合を考えてみましょう。その莫大な電流は、地面の中を放射状に広がっていきます。このとき、落雷点近くの地面の電位(電圧)が一時的に急上昇。もし、建物に接続されているアース線(接地線)が、この電位が上昇した地面につながっていると、電流は電位の低い方へ流れようとします。つまり、地面からアース線を「逆流」して、分電盤やコンセントを通じて建物内の電気回路に侵入してくるのです。これもまた、電子機器にダメージを与える原因となります。

雷サージがもたらす被害と影響

雷サージがもたらす被害は、一見すると地味かもしれません。火花が散ったり、煙が出たりすることはまれで、多くの場合、前触れなく「突然、機器が動かなくなった」という形で現れます。しかし、その影響は私たちのデジタル化された生活の根幹を揺るがしかねない、深刻なものです。

家電製品や電子機器への深刻なダメージ

雷サージが電子機器にとって危険な理由は、現代の家電製品のほとんどが、半導体やICチップといった、非常に繊細で低電圧で動作する電子部品の塊だからです。これらの部品は、日常的な100Vの電圧にはもちろん耐えられますが、数千ボルトという異常な電圧が加わると、一瞬で内部の回路が焼き切れてしまいます。この被害は、多くの場合、メーカーの保証対象外となり、修理費用も高額になりがちです。場合によっては、修理不能で買い替えを余儀なくされることも少なくありません。

<特に被害を受けやすい機器>
•パソコン、サーバー:内部の電源ユニット、マザーボード、LANポートなどが破壊され、大切なデータが失われる危険性があります。
•ルーター、モデム:電源線と通信線の両方からサージが侵入しやすく、最も被害に遭いやすい機器の一つ。インターネットが使えなくなり、生活や仕事に大きな支障をきたします。
•テレビ、レコーダー:アンテナ線からもサージが侵入するため、チューナー部分が故障するケースが多く見られます。
•スマート家電(冷蔵庫、洗濯機、エアコンなど):ネットワークに接続され、高度な電子制御を行っているため、雷サージによる故障リスクが高まっています。
•電話機、FAX:電話線を通じてサージが侵入し、故障の原因となります。

被害は電源線だけではない!通信線からの侵入経路

雷サージ対策と聞くと、多くの人が壁のコンセントだけを想像します。しかし、それは対策の半分でしかありません。雷サージは、電気を通す金属線であれば、あらゆる経路から侵入してくる可能性があります。パソコンを例にとると、電源ケーブルから侵入したサージが電源ユニットを破壊し、同時に電話線から侵入したサージがモデムとLANポートを破壊する、といった複合的な被害も起こり得ます。効果的な対策のためには、これらすべての侵入経路を意識することが不可欠です。

<雷サージの主な侵入経路>
•電源線:最も基本的な侵入経路。電柱から各家庭に引き込まれる電線を通じて侵入します。
•通信線(電話線、LANケーブル):電話局から引き込まれる電話線や、外部ネットワークに接続されたLANケーブルも、誘導雷サージの格好の侵入経路です。モデムやルーター、パソコンのLANポートが破壊される主な原因は、この経路からの侵入です。
•アンテナ線:屋外に設置されたテレビアンテナが、誘導雷サージを捉え、アンテナ線を通じてテレビやレコーダーを破壊します。
•アース線:前述の「逆流雷サージ」の通り、地面からアース線を通じて侵入してくるケースもあります。

雷サージから大切な機器を守るための具体的な対策

雷という自然現象そのものを止めることはできません。しかし、それが引き起こす雷サージが建物内に侵入するのを防いだり、回り道させたりするための有効な対策は数多く存在します。ここでは、個人で手軽にできる対策から、建物全体を守る本格的な対策まで、具体的な方法をご紹介します。

雷サージ保護機能付きの電源タップ

最も身近で導入しやすいのが、「雷サージ保護機能」を搭載した電源タップの利用です。これは、単なる延長コードとは異なり、内部にサージを吸収・軽減するための「バリスタ」と呼ばれる保護素子の部品が内蔵されています。
異常な高電圧を検知すると、この保護素子がサージ電流をバイパスさせ、接続されている機器に高電圧が流れるのを防いでくれる仕組みです。

<雷サージ保護機能付きの電源タップ選び方のポイント>
•最大サージ電圧:そのタップがどれだけ大きなサージに耐えられるかを示す数値で、単位はボルト(V)です。この数値が大きいほど、保護性能が高いと言えます。一般的な製品では2,500V程度のものから、高性能なものでは10,000Vを超えるものまであります。パソコンやサーバーなど、重要な機器を守るためには、できるだけ数値の大きい製品を選ぶと安心です。
•通信線保護の有無:パソコンやルーターなどを守るためには、電源線だけでなく、電話線やLANケーブル、テレビのアンテナ線からのサージ侵入も防ぐ必要があります。製品によっては、電源コンセントに加えて、これらの通信線を接続するための専用ポート(入力・出力)が付いているものがあります。包括的な対策のためには、こうした多機能な製品が非常に有効です。
•保護機能の動作確認ランプ:内蔵されている保護素子は、大きなサージを受けると劣化したり、壊れたりすることがあります。保護機能が正常に作動しているかを示すLEDランプが付いている製品を選ぶと、タップの寿命が一目で分かり、交換時期を逃さずに済みます。

分電盤に取り付ける「SPD(避雷器)」

個別の機器をタップで守るのが「点」の対策だとすれば、建物全体をサージから守る「面」の対策が、分電盤(ブレーカー)に設置するSPD(SurgeProtectiveDevice)、通称「避雷器」です。
これは、電柱から引き込まれた電気が最初に入る分電盤に直接取り付ける装置で、外部から侵入してくる強力な雷サージを真っ先に捉え、そのエネルギーをアース線へと逃がします。これにより、建物内のすべてのコンセントへ流れる電気を、危険なサージから保護することができます。いわば、家全体の「門番」のような役割を果たすもの。
ただし、SPDの設置は電気工事士の資格が必要な専門作業です。ご家庭やオフィスへの導入を検討する場合は、必ず専門の電気工事業者に相談してください。SPDを第一の防壁とし、各機器の手前で雷サージ対応タップを第二の防壁として使う、二段構えの対策が最も理想的です。

アース線の重要性

雷サージ対策において、実は最も重要な役割を担っているのが「アース線(接地線)」です。雷サージ対応タップやSPDは、異常な電流を「アース線に逃がす」ことで、接続された機器を守っています。
つまり、コンセントにアース端子が付いていなかったり、アース線が正しく接続されていなかったりすると、これらの保護機器は性能を十分に発揮できません。せっかくの保護機能も、サージ電流の逃げ場がないため、効果が半減してしまうのです。
最近の住宅ではアース付きのコンセントが一般的ですが、古い建物では設置されていない場合もあります。特に、パソコンやオーディオ機器など、重要な機器を接続するコンセントには、アースが正しく施工されているかを確認し、もし未設置であれば電気工事業者に相談することをおすすめします。

コンセントを抜く

あらゆる対策の中で、100%確実に機器を雷サージから守る方法が一つだけあります。それは、「すべてのケーブルを抜くこと」です。
雷サージは、物理的な配線を通じて侵入します。したがって、コンセントから電源プラグを抜き、壁の端子から電話線やLANケーブル、アンテナ線を抜いてしまえば、機器は完全に電気的・物理的に隔離され、サージの被害を受けることはありえません。
雷が近づいてきたときや、落雷が頻発している最中、あるいは夏の雷シーズンに長期間家を留守にする際などには、このアナログな方法が最も確実で、しかもコストのかからない対策となります。ただし、ケーブルを抜く際には、必ず電源線だけでなく、すべての通信線も忘れずに抜くことが重要です。

まとめ

私たちの暮らしは、今や繊細な電子機器の集合体の上に成り立っていると言っても過言ではありません。仕事のデータ、家族との思い出の写真、日々の暮らしを便利にするスマート家電。それらはすべて、目に見えない電気の安定供給によって支えられています。
雷サージは、そんな現代のデジタルライフに潜む、静かで強力な脅威です。しかし、その正体と侵入経路を正しく理解し、適切な対策を講じることで、そのリスクを大幅に軽減することがですできます。雷サージ対策は、単なる出費や手間ではなく、私たちの快適な生活、大切なデータ、そしてかけがえのない日常を守るための、賢明な「保険」と言えるでしょう。
自然の持つ圧倒的なエネルギーと共存していくために、日頃からの備えがいかに重要か。雷サージ対策は、そのことを私たちに教えてくれているのかもしれません。

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